B:野党の頭領 雷撃のギョライ
ナマズオ族は、東方地域の河川流域などに、古くから暮らしてきた獣人種族でね。人との交流もあって、概ね友好的な存在だ。ただし、未だに文明化を拒み、野生生活を送る者たちもいてね……。中には、野盗のように人を襲う者もいるそうだ。
そんな野盗ナマズオの頂点に立つのが、一度は文明を受け入れながらも、野良に墜ちた大悪党……。人呼んで「雷撃のギョライ」なのさ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ヤンサを流れる大河無二江。豊かな水量を誇る大河は大地を肥沃に育て、様々な生き物を育む。
この豊かな無二江の流域に住んでいたのは我々ナマズオ族だ。ナマズオは大河が育てた魚を生きるに間に合う分だけ獲り、自分たちも自然の一部であることを自覚しながら慎ましく暮らしていた。
そこに「人」が入り込んできて集落をつくった。
あけひろげで誰に対しても社交的で警戒を知らないのがナマズオ族の性質だ。ナマズオは「人」の進出を排除ではなく融和をもって迎えた。
ナマズオは無二江での漁の仕方を「人」に教え、「人」はナマズオに農作業を教え相互に手を取った。その頃から「人」とナマズオはお互いに一線を引きながら、同じ地域に共存する仲間として友好的に暮らしてきた。
だが、元々この地に根っこを下ろしていたナマズオとは対照的に、月日が経つうち他の地域で暮らしづらくなった人や生活できなくなった人たちが流れ込んできて、どんどん人の集落は大きくなっていった。暗黙のうちに線引きされていたテリトリーでは収まり切れなくなった「人」はナマズオの領域にどんどん侵食してきた。
もちろんナマズオにもそれを良しとしない一派はいたが、それでもナマズオは「人」の事情も斟酌し、致し方ない事と黙って引き下がっていた。
年月が経ち、暮らしている人もナマズオも世代が変わり新しい人に入れ替わっていく度、ナマズオと人との一線など知らない者が増え、多数派である人に押されていつしかナマズオは狭い地域に追いやられ身を寄せ合って暮らすようになっていった。それでもナマズオは「人」との友好関係を大切に守り続けてきた。だが多勢民族が少数民族に大きな顔をするのは世の習い、「人」も多数になっていくうち、ナマズオの存在を軽く見るようになっていく。交流しても文化的に遅れ、原始的な暮らしを続けるナマズオを対等ではなく下に見るようになる。そしてナマズオと「人」が暗黙のうちに守ってきた境界線などはすっかりなくなってしまいナマズオは「人」の社会の内に組み込まれていった。
俺から言わせればあれは静かな侵略だった。ナマズオは「人」との友好関係を大切にし、事なかれ主義に徹するあまり、無節操に「人」の価値観を受け入れ、「人」の習慣を受け入れ、文化を受け入れた。
ナマズオ独自の文化は忘れ去られ失われていく。文化的に遅れたナマズオ族の風習・風俗は「人」の風習・風俗より劣るものとして排斥され、「人」の価値観を押し付けられる。それはもはや異種族間の友好ではない。
別に俺は文明化を拒んだ訳でも特別野生生活にこだわった訳でもない。一度受け入れた文明化を捨てたのは奴らの口先だけの友好に嫌気がさしたからだ。友好の名の元に価値観を押し付け、型にはめようとしたからだ。見下されるのはごめんだ。自分の価値観は自分で決める。そうして俺たちは野に下った。
降参したギョライは地面に座り込み、シュンとした面持ちでそう語った。
「だからって野盗みたいな真似は許されないよ?」
あたしは諭すように言った。ギョライは上目遣いにあたしを見ながら言った。
「自分たちのテリトリーを主張したかったっぺよ」
ギョライの気持ちもなんとなくは分からなくもない。一族に誇りを持っているからこそ、自分たちを下に見る社会に溶け込むことが許容できなかったのだろう。
「分かった。人に見つからないように暮らすならあなたを退治するのはやめる」
そう言うとギョライは驚いたようにあたしの顔をみた。
「野盗みたいな真似は看過できないけど、悔しい想いや文化や風習を守りたかったって気持ちは理解できる」
あたしがそう言うと相方はやれやれといった様子で苦笑した。
「ただし、今後狙われないようにするためにはクラン・セントリオに貴方を退治したって証明しなくちゃならないの。それには協力してくれる?」
そう言うとギョライは驚くほど大きな頭をガクンガクンさせて頷いた。